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2004年3月 2日 (火)

宇宙をもう一度「未来の夢」に!~『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(松浦晋也)

 宇宙開発というのはまさに「過去になってしまった未来」だ、との思いを新たにした一冊。

 著者は、本書中で宇宙開発の47年間の歴史を3期に分けて総括している。1957年(スプートニク)から69年(アポロ月着陸)までの12年間の「怒涛の勢いの時代」、その後81年のスペースシャトル初飛行に至る着実な進歩の12年間、そして現在まで続く「停滞」の23年間である。
 正直言って「停滞」の時期が23年間も続いていた、という事実にまずは驚いた。そして、子供のころにはアポロに心踊らされ、「将来の夢は宇宙旅行」と公言していたはずの自分ですら、この間は、すっかり現実の宇宙開発に対して興味と関心を失っていたことに気づかされたのである。
 最近になって続いたH2-Aロケットの失敗についても、「日本の技術はどうなっているんだ」と「低レベルのマスコミ」と同程度の印象批評を心の中でしているくらいだった。「科学少年」でありSF好きだったはずの自分はどこへ行っていたのだろう、と思った次第。

 本書で一番強調されているのは、ロケットのような根本に技術の問題が横たわる案件については、当事者にも論評する側にも理工系の最低限の知識が不可欠である、という点である。それだけでなく、たとえば地球の脱出速度とか静止衛星軌道とかの概念をできるだけ平易に説明してみせ、「理工系の知識といっても高校の理科程度で十分である」ことをちゃんと立証している。
 そして、技術者的な視点で見ていくことで、たとえば日本の火星探査機「のぞみ」の失敗を、「○○億円が宇宙の塵に」というセンセーショナルな見出しで片付けてしまうマスコミがいかに浅薄であるかを浮き彫りにしていくのである。
 著者は「のぞみ」は、そもそもが打ち上げ時点からいわば「失敗」が内包されていたと考える。「のぞみ」の失敗の本質は、政治と行政に踊らされ、予算も時間もぎりぎりまで削らざるを得なかった状況にこそ大きな問題があり、逆に、現場的にはこの困難なミッションを通じて大量の経験を積むことができたという意味でむしろ大きな「成果」があった、と考える。だからこそ、この経験の蓄積が希薄にならないうちに、次の火星探査を実施するべきであり、それが「○○億円を宇宙の塵に」しないための本当の方策であると力説する。

 「のぞみ」の話は本書中で一番おもしろく読めたパートである。「ないなづくし」の中で多くのトラブルをかかえながらも、「神業的な軌道計算」によって火星軌道に「のぞみ」を投入することに成功した技術者たちの奮闘ぶりには、一種感動すら覚えた(アポロ13号の生還の話にも匹敵すると思えた)。それだけに、著者の言う今こそ宇宙開発を新しい考え(協調ではなく競争)で推進すべきである、との主張には共感するが、何しろ自分ですらこの間宇宙開発にはずっと関心を失っていたくらいである。今の若い層にとっては、宇宙とは現実味のない過去の話題でしかないのでは、と思わざるを得ない。
 その逆風の中で、特に日本において、今後宇宙開発が復活し、もう一度「未来」になっていくのには大きな困難がある。ひとつだけ芽があるとするならば、ここへ来て若い世代の作家・クリエーターが「宇宙もの」に果敢に挑戦していることだろう。何度が論評した『プラネテス』がその頂点であるが、小説の世界でも『第六大陸』(小川一水)のような「日本の宇宙開発」をテーマにしたストレートな作品が生まれてきている。こうした動きから、宇宙の未来がまた始まってくれれば、と願うことしきりである。

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