『出口のない海』~設定を生かしてない感もあるが抑えたラストに感心
横山秀夫の戦争もの、というより「特攻隊もの」である。
特攻をヒロイズムでも極端な悲劇としても描かず、当時の大学生の正直な心境とともに淡々と描き出そう、という姿勢がよい。特にユニークだと思ったのは、結局主人公たちは、回天による特攻のための訓練に明け暮れるだけで、最後の瞬間まで「リアル」な戦争を目の当たりにしていない、というあたり。戦争の悲惨さをこれでもかと描くのではなく、より純粋に日本や戦争、そして生死の問題を徹底的につきつめていくことを強いられた学生の目線が描かれているのが新鮮であった。
その結果として、「もう死を免れることはできない。だったら特攻兵器・回天があったという事実だけは後世に残したい」という思いに至った主人公は、皮肉にも人知れない訓練中の事故で死んでいく、それは「敵であっても殺したくはない」という彼の気持ちに沿った最期だったのかもしれない、という抑えたラストは大変感心した。
学徒動員というのが、実はかなり終戦間際の出来事だった、とか、特攻兵器・回天の詳細とか、結構知らないことが多く、その意味でも興味深い一冊だった。
ただ、「甲子園の優勝投手は、なぜ、自ら『人間兵器』となることを選んだのか。」といううたい文句には全然応えていないのには不満あり。別に積極的に志願したわけではなく、そういう「雰囲気だった」ということ以外に説明は出てこない。まあそのこと自体はいいといえばいいのだが、せっかく戦時下の野球という魅力的な情景を取り入れたのだから、もう少しはふたつの要素を絡ませてほしかったとは思う。
「魔球の開発」という荒唐無稽になりそうな設定も、なかなかいい感じに描かれているのだが、だったら、魔球にこだわった、という主人公の生き方が特攻によって切断されたとき、その思いにはどういう決着が付けられ、どう後に引き継がれていったのか、まで描いてほしかった。
一番疑問だったのが、冒頭から非常に思わせぶりに登場する北という「トリックスター」(そう表現されている)が結局あまり活躍しないところ。「陸上でオリンピックを目指してしたが戦争で中止になってしまい目的を失った」北と「甲子園優勝投手でありながら肩を壊して魔球で再起を図る」主人公・並木、という構造をもっと生かしてほしい。てっきり、特攻に行く前に北を急造捕手として「魔球」をついに投げる、という話になるのかと思った。むしろ、物語の終盤近くに唐突に出てくる沖田という若者が主人公の思いを引き継ぐ役回りにすりかわってしまう。
あと、これは調べればわかることだが、この話が果たして「実話」を元にしているのかどうか、というのも気になる。それによって「感動」がだいぶ変わると思うのだが、どうなのだろう。
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